大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和48年(む)1379号 決定 1973年9月13日

被疑者 権藤幸雄

主文

原裁判を取り消す。

理由

別紙のとおり

(別紙) 理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、要するに、本件現行犯人逮捕手続が適法であるのに、これを違法として本件勾留請求を却下した原裁判は誤りであるから、原裁判を取り消したうえ、被疑者に対する勾留状の発布を求める、というにある。

二、一件記録ならびに当裁判所の事実調べの結果によれば、本件逮捕は、昭和四八年九月九日午前零時二〇分ころの犯行直後、犯行現場を警ら中の警察官が、顔を血だらけにした被害者から「たつた今、白つぽい普通貨物自動車に乗つた四人組のうちの二人の男からなぐられて腕時計を盗られた。その男達は右車に乗つて四王寺山方向に逃げた」旨訴えられ、追跡中、犯行現場から約五〇〇メートルの地点で被疑者らが右自動車に乗つてひき返して来るのに出会い、職務質問の後、被疑者らの自供を得て元の犯行現場まで任意同行を求めたうえ、被害者に面割りした結果、犯人と断定して同日午前零時三五分ころ、被疑者らを傷害の事実で現行犯人逮捕したこと、被疑者らの逃走した道路は、四王寺山を経て筑紫郡太宰府町方向に通じる道であるが、犯行現場から約六〇〇メートルの地点で道路が損壊し、通行不能になつており、周囲はたんぼ、荒地で犯行現場から右損壊地点に至る間、他方向に通じる道路等は存在せず、恰も袋小路といえる状態となつており、また同所付近では本件逮捕当時、他に、人または自動車の通行はなかつたこと、本件犯行現場付近には街灯はないが、犯行現場から約五〇メートル離れた地点にある浄水場からの灯りで犯行現場付近では、人の顔が識別しうる程度に明るかつたこと、がそれぞれ認められる。

右の事実を総合すれば、本件は、刑事訴訟法二一二条一項に該当すると認められるかどうかは疑問の存するところではあるが(申立人の援用掲記する昭和三一年一〇月二五日最高裁判所第一小法廷決定は本件と事案を異にし、本件に適切でない)、犯行現場付近の状況から、犯人の同一性が客観的に担保されていると解せられ、少なくとも同条二項一号にいう準現行犯人にあたることは明らかであるというべきである。

そうだとすると、結局、本件現行犯逮捕は適法であつて、これを違法とした原裁判は失当であり、被疑者には罪を犯したと疑うに足りる相当の理由および刑事訴訟法六〇条一項二号、三号に該当する事由のあることは明らかであるから、原裁判の取消を求める本件準抗告の申立は理由があるので、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により、原裁判を取り消し、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例